複雑相互作用を考慮した多ホスト-多パラサイト系の共進化動態による生物多様性・ 遺伝的多様性維持機構の解明

伊東 啓
(長崎大学 熱帯医学研究所 講師)

2017年9月20日水曜日

伝染病株式会社

「Plague Inc. -伝染病株式会社-」はiOS/Android対応のアプリケーションです。

簡単に言えばスマホアプリのゲームです。
このゲームは新種の感染症になったつもりで人類を全滅させることを目的とするすげぇゲームです。いや、良い着眼点だと思います。感染症の立場になっているところが面白いところです。

OP画面。いや、なんか不安になるこの感じ、初めて熱研でバイオハザードマークを見たときに似ています。

とりあえずチュートリアルをやってみますかね。

伝染病の養成学校ってなんやねん!という感じですが、とりあえず教えてもらおうか。


まずは伝染病の名前を付けます。う~ん。伊東病も変なんで、「ジャパンプライズ病」にしよう。新しく出てきたから、新興感染症のカテゴリなんでしょうか。

そろそろジャパンプライズさんから「伊東先生、申し訳ないんですけど、もうブログ辞めてもらえませんか?」って来るかもしれません。いつでも怒られる準備できてますよ!


ジャパンプライズ病爆誕(伊東博士がジャパンプライズ研究助成を受けて発見した病気という設定)

チュートリアルは中国に第一感染者が現れます。どうやらこのゲーム、発展途上国だと感染が広がりやすいとかいろいろ凝った要素があるようです。

まずは「伝染」を上げて感染者を増やします。




こういう時は人の立場になって一番厄介な媒介方法を考えればいいわけです。
う~ん、蚊かなぁ…
その他にも家畜や鳥などを媒介に感染を広げることが出来ます。


次に症状です。



ここが興味深くて、大体存続している病気は「弱毒化」する傾向があると言われています。つまり感染症は人類と共存して行く上で弱くなるということです。なぜなら、ホスト・宿主である人を殺してしまうとパラサイト側の自分(病気ですけど)も死んでしまうので、共存を考えると弱毒化するのが実は生物学的には良いとされています。

そもそも病原体と呼ばれるものだって、彼らが意思を持って「宿主をぶっ殺してやる!」とか思っているわけではないですし。単純にそれが病原体にとって都合がいいか悪いかに帰着します。もちろん、ホストが死亡した方が病原体にとって都合がいい場合は致死性が高くなるとは思いますが。

かの有名なロバート・メイ博士は(ジョン・メイナードスミス博士だったかも)、
「病原体が一番人に適用した状態は、病気であることにホストが気付かないような(ほとんど影響がない)状態のはずだ。なぜなら、病気を起こしてしまうとホストを弱らせ、殺してしまい、家を失うのと同じことだから。病気が発生してしまうのは、まだホストに適用仕切れていないからではないか」と述べたらしいです。受け売りなんで本当そう言ったかは分かりませんが、言っていることには説得力があります。

つまり、一番やっかいな病気は気付かれないような存在であったり、「死ぬほどじゃない」ということです。死ぬほどの病気は基本的に最優先で対処されてしまうからです。
病気を病気たらしめるのは、「死なない程度の病原性」だということです。これは私のブログ「ネトゲで流行った感染症」で復習してくださいね。

しかし、今回の目的は人類を全滅させるという生物学的には大失敗にもほどがある結末に持っていかなければなりません。なぜ大失敗かと言うと、人に感染する病気なのに人類を全滅させたらそもそも病原体が成り立たなくなってしまうからです。この病気はヒト以外にも感染してヒト以外に感染していれば十分に存続できる病気なんでしょうかね(かといって人類を絶滅させる必要も無いですけど)。

とりあえず悪さしないバクテリアとして勢力を広げていきます(その他にも真菌やウィルスなどになることもできるようです。私はペーペーの初心者なのでバクテリアしかできません)。


ミッション「人類を絶滅させろ」という目標に対して、恐らくここでの最適解は、

「人類にバレずに感染者を増やし、一気に病原性を進化させることで薬の開発が達成されないうちに人類を屠る」

というものでしょう。
渡航制限や薬品の開発など、なんかそんなような空港マークや薬マークが見えるので、これらの対策がなされないようコッソリ勢力を伸ばして、対策が本格的になったところで一気にヤバい病気に変異するということです。

したがって、しばらくはおとなしい人畜無害の病気として勢力を伸ばすのが肝要…



…って言ってるそばから思惑外のことが起こりました。いやいや、発疹とか目立つようなことせんでくれや…治療法が確立されてしまうやないですか。

以下、右上の日付が時系列になってないことがありますが、あまり気にしないでください




とりあえず世界中に勢力を伸ばします。




さて、感染症が広がってきました。まだここでは発疹を起こす大したことのない病気です。ですが存在が気付かれてるので、ちょいちょい世界が騒ぎ出します。


あーあ。オリンピックなんてやってるからだよ。日本ももうすぐオリンピックですね。


世界も認めるジャパンプライズ!世界の伝染病ジャパンプライズ!
(今のところ致死性は無く、発疹を起こす地味な病です)

あああああああああ。恐れていた事態が。

右下のCureが1%になりました。これが100%になると治療法が完全に確立されたことになり、こちらの敗北です。決着が近い…。左下のDNAポイントを使用して病原性を上げるしかない。


ニュージーランドを中心としたチームが研究を始めます。やばい。ここからはスプリント勝負です。致死性を一気に獲得して人類を抹殺するか、治療法が開発されてこちらが撲滅させられるか二つに一つです。

そんな決着の到来を予感してか、日本は空港を閉鎖します。

鎖国だー。ちなみに伊東はいつも心の鎖国をしています。

さて、薬の開発とスピード勝負です。ここらで一気にいかせてもらうぜ。

ちなみに、現在話題になっている抗生物質の効かない薬剤耐性菌ですが、既に薬の開発スピードは薬剤耐性菌の出現スピードより遅いことが知られています。抗生物質の無用な乱用は控えましょう。


勝手に炎症を獲得するジャパンプライズ病…もう手が付けられない



なんということでしょう…フランスで最初の死者が出ます。
「薬の開発はどうなってるんだ!」ということで、いまの世界の対応を見てみましょう。



治療の確立まで4年かかると出ています。ジャパンプライズ病の余命も4年ということです。しかし、コッソリと世界中に潜んでいた甲斐があったというもの。すでに世界中にキャリア(感染者)が広がっているので、最早手遅れです。ぐふふ。

ちなみに、この治療法確立までの期間ですが、薬剤耐性を獲得するなどして開発期間を延ばすことができます。




アチャー。日本崩壊。
先進国が崩壊すると治療法の開発が鈍化します。



ということで、人類滅亡です。お疲れ様でしたー。
治療法の開発も73%まで進んでいたので、危なかったですね。




勝利!…これはめでたいのか?。





まぁどんなもんよ。
こちとら長崎大学熱帯医学研究所の国際保健学分野で機関研究員をしていたんですよ。今でも客員研究員なんですよ。感染症モデリングやってる学者が本気出してゲームすればこんなの朝飯前ですわ。



って感じで、本番の難易度ノーマルでやってみよー!






ってあれ?

根絶!


なんつーか。あれですね。時系列的に重要度が変わるんですよね。

薬の開発開始前:伝播力>病原性(病原性は無ければ無いほどバレずに済む)
薬の開発開始後:病原性>伝播力(世界中の人が感染していればもう伝播力は不要)

と重要度に逆転が起こるので、私みたいにいい気になって伝播力を上げても、感染が十分に広がった後には無意味になってしまうんですね。いやぁ勉強になります笑


まぁそんな感じで、遊んでるだけに見えますが、私としては遊んでいるだけではないつもりです。というのも、今期から4年間、私が代表の研究課題が科研費:若手研究Aが採択されました。題名は、
内容をこれでもかと言うくらい大雑把に言うと、この伝染病株式会社の薬剤耐性菌バージョンを作るという感じです。
時々なんか面白いシミュレーションゲームがないか探してたりしたのですが、このゲームは最近話題になっていたので、何か研究面で得るものがないかと思いやってみた次第です。

まだノーマルもクリアできてないので、もうちょっとやり込まないとなんとも言えませんね。うん。


2017年9月4日月曜日

極地研の南極・北極 科学館

先日、立川にある統計数理研究所で「ネットワーク科学セミナー2017」が開催されました。

複雑ネットワークは物理学の分野で大きく発展しましたが、これは感染症モデリング(疫学モデリング)に応用することができます。

感染症モデリングは、医師がやっているように思えるかもしれませんが、物理学者や工学者の力が欠かせないんです。なので、実際に病気を見ている医師と、他分野に跨る数理モデラーの協力が良い研究に繋がります。

今回のセミナーは、知り合いの先生に誘われたので一応行ったんですが、私が一番に心を奪われたのは研究発表ではなくペンギンです。


かわいー。
このペンギン、私好みのモニョっとしてフォルムと闘志を帯びた曇りなき瞳をしています。
私こういう目に弱いんですよね。

統計数理研究所は、極地研究所と併設されているかなんかそういった事情で、「南極・北極科学館」が隣に建てられています。




色んな所にいるペンギンがかわいい。

入るとなかなかの規模です。




南極・北極と言っても、ほとんどの部分は南極が占めています。
やはり南極と北極で予算分配が相当違うんですかね。






















左が第一次南極越冬隊の装備で、右が現在の装備です。
昔の装備はゴアテックスとか無かったから、汗が冷えると相当ヤバそうです。



雪上車です。すげー四角い。
乗れませんが、後ろが開いているので、そこから中が見えます。
中は一緒にいた先生曰く「古い機関車の匂いがする」




南極の越冬隊が過ごす部屋です。意外と良い感じです。
私がいま住んでいるアパートの部屋より遥かに居住性が高そうです。

でも実際は白夜と極夜があるので、越冬隊の生活を映したビデオを見ていて「これ自律神経失調症とかになりそう」と思ったりします。せめて居住空間は快適じゃないとダメなんでしょうね。





私は南極物語をよく知らないんですが、カラフト犬たちが引っ張っていたソリです。




外にはそのカラフト犬たちを称える銅像が立っています。
このあたり、私より世代が上の先生たちが「おお~、あの」みたいな感じでテンションが上がる部分です。

感想としては、
いやぁ~、南極行ってみてぇ~(でも1年はちょっと…)

私が客員で所属している熱帯医学研究所(熱研)も、「熱研ミュージアム」というのが建てられていて、結構見ごたえがあります。熱研と極地研はカバーするところが違えど、危険な場所に研究に行くという意味では共通点を感じますね。

南極・北極科学館にはペンギンとかの剝製がおいてありますが、我が熱研ミュージアムには蚊の標本とか置いてあります。

デートで来るなら熱研ミュージアムより南極・北極科学館のほうがいいかもしれませんね…。でも熱研ミュージアムも来てください(営業)。




そういえば、日本進化学会から第17回日本進化学会研究奨励賞をいただきました。
今年は科研費も賞も大漁でうれしい限りです。