複雑相互作用を考慮した多ホスト-多パラサイト系の共進化動態による生物多様性・ 遺伝的多様性維持機構の解明

伊東 啓
(長崎大学 熱帯医学研究所 講師)

2017年5月2日火曜日

ネトゲで流行った感染症

昨年度、熱研(長崎大学熱帯医学研究所)に居た頃、仲良くしてもらっていた同僚の先生から、

「伊東君、中学生の頃オンラインゲームにハマってたんでしょ?」
と聞かれたので、

「そうっすね。朝3時に起きてゲームしてたりしましたね。親にLANケーブル隠されるくらいにはやりましたよ。」
と答えたところ、

「オンラインゲームで感染症が流行ったこと知ってる?」
と紹介してもらった話が今日の話題です。別に私が研究した内容ではありません。


スマートフォンや携帯ゲーム機が発達した昨今では、オンラインゲームは珍しくもありませんが、2000年代の初頭では多人数参加型のRPG(MMORPGとか呼ばれますが)は非常に画期的かつ中毒性の高いコンテンツでした。


特に剣と魔法を使って冒険するタイプのファンタジー系ゲームでは、その自由度に驚かされます。一応魔王を倒す的なストーリーもあるのですが、ロールプレイに全く縛りがないので、

・魔王もモンスターも無視してずっと海辺で魚釣りをして、魚を売ってる人とか
・ずっと炭鉱に篭って金属を掘り、合金を作って売ってる人とか
・移動の魔法を使って人を移動させるタクシーやってる人とか
・効果なアイテムを落とすモンスターが出現するのを、何日も張り込みして待ち構えてる人とか

まるで勇者感がありません。が、
この世界は需要と供給によって物の値段が変動するので、商人・職人・狩人・漁師・炭鉱夫・タクシードライバーのように、色々な人が色々なプレイを楽しむことができる訳です。


こういった世界では、基本的に境界条件として、
「安全な町」と、「モンスターの居る危険な町の外(平原・洞窟・ダンジョン・森・砂漠もろもろ)」
という2つの領域があります。

通常モンスターは町の中に入ってこれないため、死ぬこともなく、安全です。
しかし、とある条件が重なり、町の中にモンスターが使う「病気」を持ち込むことが成功してしまった事件があります。


「Corrupted Blood事件」
2005年にMMORPG「World of Warcraft」というゲーム内で起こったパンデミック事件です。

とあるダンジョンのボスが使用する攻撃魔法「Corrupted Blood」は、対象プレイヤーに3秒間ダメージを与えるもので、周囲に居るキャラクターに感染する特徴がありました。

通常、この病気がダンジョン外へ持ち出されることはありませんが、(ゲームアップデート時のバグもあり)あるプレイヤーによって町にもたらされました。

この病気は、体力のある高レベルプレイヤーには大した影響はないのですが、体力の低い低レベルプレイヤーは死に至る場合があります。
町中は安全だと思っているため、町は屍で溢れました。

「Corrupted Blood lancet」の画像検索結果

(う~ん、死屍累々。ちなみにこれ、れっきとした医学系Lancet infectious diseasesのFigure 1です。死亡すると白骨化します。引用:E. T. Lofgren & N. H. Fefferman


ここで興味深いのは、当時のプレイヤーが現実的な行動をとっている点です。

・治療できる魔法を使える人は、治療を申し出る
・感染して死んだ者が、「ここから離れろ!」と指示をする。(オンラインゲームではよく死んだ後もチャット機能が使えたりする)
・未感染者は感染者と距離をとり、みな避難する
・感染者の隔離を試みる
・言うこと聞かずに、わざと感染を広げる奴が居る(重要)

結局この病気により、町はパニックになり、主要な町と都市はうち捨てられ、生き残ったプレイヤーはどんどん田舎に逃げていったということです。

「Corrupted Blood lancet」の画像検索結果

(こいつが病の元凶The primary source of infectionです。ちなみにこれがFig.2です笑 引用:E. T. Lofgren & N. H. Fefferman


このパンデミック現象は、バーチャルリアリティではあるものの、パンデミックが発生したときに人がどのような行動をとるのかという点で非常に注目を集め、学術誌「Lancet Infectious Diseases」に論文まで載りました。


特に「パニック」、「スーパースプレッダー(感染をめちゃくちゃ広げる人)」、「言うこと聞かず感染を広げる人」などの存在は、実際のパンデミック現象に立ち会わなければ再現されない点です。


このあたりは英語のWikiとかにも書いてあるのですが、感染症数理をやっている人間が一番注目すべきは、その基本再生産数でしょう。

基本再生産数R0(アールゼロとか、アールナウト、アールノートと呼ばれる)は、その感1人の染者が平均何人に病気をうつすか?という病気の感染力を示す指標です。したがって、R0=3の場合は、感染者は平均して3人に病気をうつし、新規感染者を作っていることになります。R0が1よりも小さい場合、1人の感染者は1人以上の感染者を生まないため、時間と共に感染は終息していきます。逆にR0>1の場合は感染が拡大します。そのため公衆衛生ではR0<1とするような変数をとれば、感染の拡大を抑えることができるため重宝されています。


さて、「きわめて感染力の高い」麻疹はR0=12~18と言われています。
今回のCorrupted Bloodは、R0が推定で100(10^2)を越えていたということですから、どれだけ恐ろしい病気かわかると思います。この病気が3秒しか持続しないことを考えれば、空間的接触だけでそれだけのR0をたたき出すことができることを示しています。


このあたりは論文の本編に書いてありますが、一般の人はあまり着目していないため、記事になっていません。

そして、病気が病気たりえる条件は、「死なない程度の症状」という性質に起因することもこの例は教えてくれています。
(あまりに強い毒性は、保菌者を殺してしまうため、感染症として成り立たない)


結局運営側がサーバーを落とし、病気をダンジョン外へ持ち出せないように変更することで終息したと言います。


長崎から東京に引っ越して一ヶ月。大学の近くにアパートを借りましたが、ときどき乗る満員電車でいつもこの事件を思い出すんですよね(ゾクゾク)。


今回紹介した論文

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